♪ 期待

「赤ちゃんの頃は何もできないのが当たり前だったのに、成長と共にできることが一つ一つ増えていって、そのうち“できる”ということが当たり前に思えてくる。ピアノもそれと同じなんですね。」

 

 

これは、2歳の娘さんを持つ大人の生徒さんの言葉です。

 

先日アップした私の「やる気」に関する記事を読んで、いずれ始めるお子さんのピアノのレッスンに、ほのかな不安を抱かれたようです。

 

 

確かに、「これだけのことをしてきたのだから出来て当たり前」と思うのは、ピアノのレッスンを続ける上でとても危険なことだと思います。

 

これは私たち教師にも言えることですが、その時々にきちんと理解できているかの確認をしていかないと、ある時現実を突きつけられてビックリということになりかねません。

 

例えばフラッシュカード一つとっても、(あれだけ長い期間読み続けたのだから、読譜に困ることはないはず)と思い込んでいる、なんてことはありませんか?

 

けれどフラッシュカードは、どれだけ長い時間をかけて読んだかということ以上に、どのように読めていたかが問題です。

 

お子さんは、フラッシュカードを読む時、一瞬でも詰まることなく流暢に読めていたでしょうか?

 

間違えず読めるようになったところで、すっかり安心してしまって、読むことを止めてしまってはいませんか?

 

「音を読む」ことの得意不得意は、かなり個人差があります。

 

お子さんが「音を読むこと」に余り得意な方ではないと感じたなら、是非ともフラッシュカードは継続して読んで頂きたいですし、1日に1回だけでなく、2回3回と繰り返し読むことをお勧めします。

 

何故なら、ピアノを長く楽しむためには、読譜に困らないことが絶対条件だからです。

 

とはいえ実際問題、一つの音符を読むのに長い時間をかけているお子さんの姿を目の当たりにしたら、それは先々が心配になりますよね。

 

ただ、その時決してそのガッカリした気持ちをお子さんにぶつけないで頂きたいと思います。

 

有名な説ですが「ピグマリオン効果」というものがあります。

 

別名「教師期待効果」とも言います。

 

米国の教育心理学者ロバート・ローゼンタールが提唱した説で、「人間は期待されたとおりの成果を出す傾向がある」というものです。

 

そしてそれは、実験によって実証されてもいます。

 

それは、ネズミを用いた実験で、「このネズミは利口なネズミの系統」と学生に伝えたネズミと、「このネズミは動きが鈍いネズミの系統」と学生に伝えたネズミとの間で、迷路による実験結果の差を調べました。

 

すると「利口なネズミの系統」と伝えられていたネズミの方が良い結果を残したのです。

 

もちろん、人間の子供においても実験はなされました。

 

「成績の優秀な生徒を集めたクラス」と「成績の悪い生徒を集めたクラス」を作り、それぞれのクラスの担任になる者に、それとは逆のことを言ってクラスを担当させました。

 

その結果、成績は見事に逆転したのです。

 

このことによってローゼンタールは、「期待をこめて他者に対応することによって、期待をこめられた他者の能力が向上する」ことを実証したのです。

 

ただし、口先だけで心が伴っていなければ、その効果は望めません。

 

何故なら、人は言葉以上に、他者の態度(表情、仕草、視線、声色)から本心を読み取ることができるからです。

 

つまり、お子さんの可能性を本気で信じ応援するところからしかピグマリオン効果は期待できない、ということなのです。

 

だとしたら、ピアノのレッスンとは、教師や親の「信じ続ける心」が試される場でもあるのかもしれません。

 

時には耐えて待つことも必要なのだと思います。